売買のコツと心得一覧

売るべし 買うべし 休むべし

年中、売ったり買ったりしていなければ気のすまない人がいる。失礼な言い方だが、そういうやり方で儲かっている人はいないのではないだろうか。

株式投資に売りと買いのどちらかしかないと思うのは誤りで、休むことも大切な要素であると説くのが、この「売るべし 買うべし 休むべし」である。「売り買い休みの三筋道」とか「休むも相場」等ともいう。

だいたいが人間は欲と道連れである。相場で利益を上げれば「もっと取ってやろう」と思い、損をすれば「今度は取り返そう」と、常に売ったり買ったりしてしまいがちだ。こういう心理には、知らず知らずにおごりと焦りの気持ちが入り込んでいる。この2つが、共に相場には大禁物であることは前にも述べた。むろん結果は歴然であろう。

損得に関係なく、一つの売買が終わったら一歩退いて市場の環境や相場の動向、そして天下の形勢をゆっくり眺め回す余裕を持つ。この間に目のくもりを払拭し、心身のコンディションを調整し、同時に投資資金を整えて、次の機会に備えるわけだ。

とにかく株式投資で無理をすれば、必ず敗れる。何らかの制約をおしてまで株式投資をする愚は避けることだ。「眠られぬ株は持つな」「命金には手をつけるな」という格言もある。また「つかぬときは止めよ」ともいう。ウォール街にも「疑わしいときは何もするな」という格言がある。いずれも、そういうときは出動を取りやめて、いったん休みなさいと教えている。

徳川時代の古い格言にも、次のようなものが見られる。

  • 不利運(損失勘定)のとき、売り平均買い平均(ナンピンつまり単価をならすこと)せざるものなり。思い入れ違いの節はさっそく仕舞い、四五十日休むべし。(中略)何程利運を得ても、この休むことを忘るるときは、商い仕舞いのときはきわめて損出ずると心得べし。(宗久翁秘録)
  • 年中、商い手の内にあるときは利運遠し。折々仕舞いて休み見合わせ申すべきこと第一なり。(同)
  • 売り買いを、せけばせくほど損をする。とんと休んで手をかえてみよ。(三猿金泉秘録)
  • 気の落ちつかぬときの商いは、十度が十度ながら損なりと察すべし。(相庭高下伝)

見切り千両

買った株が値下がりしたときの投資家心理は、言葉では言い表わせないほど、つらい。居ても立ってもいられないジリジリした気持ちに襲われ、迷い始める。そこで、どうするか。多くの人は、自分の下した判断に未練を残し、株価が戻ることを期待してそのまま持ち続けるものだ。しかし、株価はなお下がり続ける一方で、ついにはとんでもない安値で投げざるを得ない羽目に陥る。「少しくらいの損なら、さっさと売っておくのだった」と後悔することになる。

そこで「見切り千両」という格言が効いてくる。損には違いないが、それによって大損が避けられるのなら、千金の価値があろうというものである。

そうはいっても、格言を信じて見切ったとたんに株価が戻り始めることだってあるじゃないかという向きもあろう。が、要は見切りのタイミングである。買い値からどのへんの水準で見切りをつけるべきかの問題となる。これはやはり早過ぎてもいけないし、遅過ぎるのは論外。「相場は相場に聞け」の言葉を思い出し、熱くなった頭を冷やして、現在地を正しく把握することが第一である。その上で、自分の判断に誤りが見出せたら、思い切って売ることだ。

ただし、自分の判断が正しいと思ったときでも、そのまま持続して株価が戻る保証はないし、仮に戻るにしてもその間(長くなるかもしれない)、ずっと痩せる思いをしなければならない。そこで、いったん見切っておいて捲土重来(けんどちょうらい)を期した方が、よほど気持ちの負担が少なくていいし、再出動のときはこれまでのひっかかりがないだけサッパリとした気分で動ける――という面もあることに思いを致す必要があるだろう。

この格言ほど、分かっていて実行しにくいものはなく、したがっていろいろな言い回しがある。いわく「損切りはすばやく」「引かれ玉は投げよ」「迷いが出たら売れ」等々。ウォール街でもズバリ、「損は落とせ、さらば利益は大ならん」(Cut loss and let profit run.)と言っている。

わが国古来の相場訓は、次のとおり。

  • 何の道にも、進むと退くとが肝要なるべし。(売買出世車)
  • 皆われ一心の妄想に引き回されて、思わぬ損をすることなり。(中略)見切ってしまうべきところを引きしろいて(引きのばして)大損などするごとくなれり。(同)
  • 仕掛けたる米にて損を惜しみ、無理にひいきを付け、辛抱するほど大損するものなり。毎度あることなり。必ず見切るべし。過ちは改むるに憚ることなかれ。(八木虎之巻)
  • 不利運のとき、見切り大切のことなり。思い入れ違うときは早仕舞い、行付をみるべし。(宗久翁秘録)
  • 引かれ腰は弱く、利食い腰は強く。(八木龍之巻)