株式投資の心構え一覧

人の行く裏に道あり花の山

株式投資の格言といえば、何をおいてもまず出てくるのが、この言葉である。投資家は、とかく群集心理で動きがちだ。いわゆる付和雷同である。が、それでは大きな成功は得られない。むしろ他人とは反対のことをやった方が、うまくいく場合が多いと説いている。

大勢に順応すれば、確かに危険は少ないし、事なかれ主義で何事によらず逆らわないのが世渡りの平均像とすれば、この格言、多分にアマノジャク精神に満ちている。だが、人生の成功者は誰もやらないことを黙々とやってきた人たちであり、欧米では「リッチマンになりたければ“孤独”に耐えろ」と教えるのが通例。人並みにやっていたのでは、人並みの結果しか得られないというわけだ。

株式相場は、上げばかりでもなければ、下げばかりが続くこともない。どこかで転機を迎える。その転機を、どうしたらつかめるか。四囲の環境や材料から続み取るのは、むろん大切なことだが、大勢があまりにも一方へ偏り過ぎたときなどには、この格言を思い出すことだ。

これと類似の格言に「友なき方へ行くべし」「相場師は孤独を愛す」などがあり、ウォール街にも「人が売るときに買い、人が買うときには売れ」(Buy when others sell; Sell when others buy.)「株というものは高いときには最上に、安いときには最低に見えるものだ」という言葉がある。

また、徳川時代の相場格言にも、さすがに同じ意味を説くものが多い。順不同だが、以下に列挙してみよう。

  • 万人の気弱きときは米上がるべきの理なり。諸人気強きときは米下がるべきの種なり。(三猿金泉秘録)
  • 弱気の理、世に現われ出ればみな弱気、何時にても買いの種まけ。(同)
  • 万人が心に迷う米なれば、つれなき道へおもむくがよし。(同)
  • 万人が万人ながら弱気なら、のぼるべき理をふくむ米なり。(同)
  • 千人が千人ながら強気なら、くだるべき理をふくむ米なり。(同)
  • 野も山も皆一面に弱気なら、阿呆になりて米を買うべし。(同)
  • 万人が万人ながら強気なら、たわけになりて米を売るべし。(同)
  • 万人があきれはてたる値が出れば、それが高下の界(さかい)なりけり。(同)
  • いつとても買い落城の弱峠、こわいところを買うが極意ぞ。(同)
  • いつとても売り落城の強峠、こわいところを売るが極意ぞ。(同)
  • 向かう理は、高きを売りて安きを買う。米商いの大秘密と知れ。(同)
  • 米だんだん下げ、人気も揃い弱く、何程下がるも知れがたく、わが考えも弱かるべしと思う節、心を転じ買い入れるべきなり。この思い切り、海中に飛び入る心持ち甚だ成しにくきものなれど、その節疑いの気を生ぜず買うべし。きわめて利運なり。下げと見込むとき、思い入れの通り下がるものなれば心易きものなれど(わけはないが)、人気下がると片寄るときは、かえって上がるものゆえ考えに及ばざるなり。上げも同断。すなわち海中に飛び込む心持ち、極意なり。(宗久翁秘録)
  • 十人が十人片寄るときは決して(必ず)その裏くるものなり。(同)
  • 米弱みにみえ、しきりに売り気進み立ち候節、気転じ買い方につくべし。きわめて利運なり。ぜひ上ぐべしと買い気進み立ち候節、これまた気を転じ売るべし。(同)
  • わが思い入れをみだりに人に話すなかれ。他の了簡聞くことなかれ。(相庭高下伝)

買いたい弱気 売りたい強気

株式投資は、将来の予測に賭ける知的利殖法だという見方がある。しかもそれは、誰の力を借りるわけではなく、あくまでも自分一人の判断によるという大前提がある。

人にとって、孤独な判断や決断ほど苦手なものはない。たとえ最初から聞く気はなくとも、他人に意見を求めようとする。心の負担を減らし、自分の考えを正当化しようとするためだ。逆にいえば、自分の判断に自信がなく、したがって希望的観測にすがりついている姿が浮き彫りにされてくる。そこで、この格言が生まれてきた。

例えば「買いたい弱気」。上げ相場のさなか、本心では買いたいと思っていながら、少しは下がって安いところで買えそうな気がしてくる。それが高じて、どうしても相場が下がってほしい、いや下がるのだという希望的観測にとらわれて“ニワカ弱気”となり、ついには逆目の売りに手を出してしまう。「売りたい強気」はその反対である。つまり、自分の都合で立てた仮説が、いつか自分をがんじがらめに縛り上げるようなものだ。

この希望的観測を生むいわば元凶が「高値おぼえ 安値おぼえ」。ひとたび経験した値段を忘れかね、いつまでも昔の夢に入りびたっていると、相場の転換期についていけなくなる。ところが株式の世界ほど、昔話を語りたがる人の多いところはない。「あのときA株は何円で――」というたぐいだ。 それが単なるお話から、現実の世界へ置き換えられる。「こんな安値があったのだから、今の株価では買えない」という結論をもたらし、大きな転換期をつかみそこなう元となる。

「株価はもとの古巣に帰る」というように、将来の予測に、過去の足どりは確かに一つの手がかりとはなろうが、それがすべてではない。世の中でも「思い出話を好むのは老人。若者が思い出にふけっているようでは先がない」といわれている。進取の気性は株式投資にも生きているようだ。

ウォール街の格言でも「相場に過去はない」といい、前向きの姿勢が大切であることを説いている。